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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
――夕方、沢山荷箱を積んである蔭で、私は人に隠れて思い切り足を掻いていた。指が赤くほてって、コロコロにふくれあがると、針でも突きさしてやりたい程切なくて仕様がなかった。
「ホウえらい霜やけやなあ。」
番頭の兼吉さんが驚いたように覗いた。
「霜やけやったら煙管でさすったら一番や。」
若い番頭さんは元気よくすぽんと煙草入れの筒を抜くと、何度もスパスパ吸っては火ぶくれしたような赤い私の足指を煙管の頭でさすってくれた。銭勘定の話ばかりしているこんな人達の間にもこんな親切がある。
(二月×日)
「お前は金の性で金は金でも、金屏風の金だから小綺麗な仕事をしなけりゃ駄目だよ。」
よく母がこんな事を云っていたけれど、こんなお上品な仕事はじきに退屈してしまう。あきっぽくて、気が小さくて、じき人にまいってしまって、ひとになじめない私の性格がいやになってくる。ああ誰もいないところで、ワアッ! と叫びあがりたいほど焦々するなり。
只一冊のワイルド・プロフォンディスにも愉しみをかけて読むなり。
――私は灰色の十一月の雨の中を嘲り笑うモッブにとり囲まれていた。
――獄中にある人々にとっては涙は日常の経験の一部分である。