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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
街は春の売出しで赤い旗がいっぱいひらひらしている。――女学校時代のお夏さんの手紙をもらって、私は何もかも投げ出して京都へ行きたくなっていた。
――随分苦労なすったんでしょう……という手紙を見ると、いいえどういたしまして、優しいお嬢さんのたよりは男でなくてもいいものだと思う。妙に乳くさくて、何かぷんぷんいい匂いがしている。これが一緒に学校を出たお夏さんのたよりだ。八年間の年月に、二人の間は何百里もへだたってしまっているはずだのに、お嫁に行かないで、じっと日本画家のお父さんのいい助手をして孝行をしているお夏さん、泪の出るようないい手紙だった。ちっとでも親しい人のそばに行って色々の話をしたいと思う。
お店から一日ひまをもらうと、寒い風に吹かれて京都へ発って行った。――午後六時二十分京都着。お夏さんは黒いフクフクとした肩掛に蒼白い顔を埋めてむかえに出てくれていた。
「わかった?」
「ふん。」
二人は沈黙って冷たい手を握りあった。
私にはお夏さんの姿は意外だった。まるで未亡人か何かのように、何もかも黒っぽい色で、唇だけがぐいと強く私の目を射た。
椿の花のように素敵にいい唇だ。