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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

女房をカフエーに働かして、自分はこんな本箱を買っている。いつものように二十円ばかりの金を、原稿用紙の下に入れておくと、誰もいないきやすさに、くつろいだ気持ちで、押入れの汚れものを探してみる。

「あの、お手紙でございます。」そう云って、下宿の女中が手紙を持って来た。六銭切手をはったかなり厚い女の封書である。私は妙な気持ちで爪を噛みながら、只ならぬ淋しさに、胸がときめいてしまった。私は自分を嘲笑しながら、押入れの隅に隠してあった、かなり厚い女の手紙の束をみつけ出したのだ。

――やっぱり温泉がいいわね、とか。

――あなたの紗和子より、とか。

――あの夜泊ってからの私は、とか。

私は歯の浮くような甘い手紙に震えながらつっ立ってしまった。――温泉行きの手紙では、私もお金を用意しますけれども貴方も少しつくって下さいと書いてあるのを見ると、私はその手紙を部屋中にばらまいてやりたくなっている。原稿用紙の下にした二十円の金を袂に入れると、私はそのまま戸外に出てしまった。

あの男は、私に会うたびに、お前は薄情だとか、雑誌にかく詩や小説は、あんなに私を叩きつけたものばかりではなかったか……。