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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

「意気地がねえなア……」

皆は逃げ出している私の後から笑っていた。

夜。

ひとりで、新宿の街を歩いた。

(七月×日)

「ああもしもし××の家ですか? こちらは須崎ですがねイ、今日は一寸行かれませんから、明日の晩いらっしゃるそうです。××さんにそう云って下さいねイ。」

又、重役が、どっか芸者屋へ電話をかけさせているのだろう、荻谷さんのねイがビンビンひびいている。

「ねイ! 林さん、今晩須崎さんがねイ、浅草をおごってくれるんですって……」

私達は事務を早目に切りあげると、小僧一人を連れて、須崎と荻谷と私と四人で自動車に乗った。この須崎と云う男は上州の地主で、古風な白い浜縮緬の帯を腰いっぱいぐるぐる巻いて、豚のように肥った男だった。

「ちんやにでも行くだっぺか!」

私も荻谷も吹き出して笑った。肉と酒、食う程に呑む程に、この豚男の自惚話を聞いて、卓子の上は皿小鉢の行列である。私は胸の中かムンムンつかえそうになった。ちんやを出ると、次があらえっさっさの帝京座だ。私は頭が痛くなってしまった。赤いけだしと白いふくらっぱぎ、群集も舞台もひとかたまりになって何かワンワン唸りあっている。