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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

こんな世界をのぞいた事もない私は、妙に落ちつかなかった。小屋を出ると、ラムネとアイスクリーム屋の林立の浅草だ。上州生れのこの重役は、「ほう! お祭のようだんべえ。」とあたりをきょろきょろながめていた。

私は頭が痛いので、途中からかえらしてもらう。荻谷女史は妙に須崎氏と離れたがらなかった。

「二人で待合へでも行くつもりでしょう。」

小僧は須崎氏からもらった、電車の切符を二枚私に裂いてくれた。

「さよなら、又あした。」

家へかえると、八百屋と米屋と炭屋のつけが来ていた。日割でもらっても少しあまるし、来月になったら国へ少し送りましょう。階下でかたくりのねったのをよばれる。床へはいったのが十一時、今夜も隣のマズルカが流れて来る。コウフンして眠れず。

*

(九月×日)

今日もまたあの雲だ。

むくむくと湧き上る雲の流れを私は昼の蚊帳の中から眺めていた。今日こそ十二社に歩いて行こう――そうしてお父さんやお母さんの様子を見てこなくちゃあ……私は隣の信玄袋に凭れている大学生に声を掛けた。

「新宿まで行くんですが、大丈夫でしょうかね。」

「まだ電車も自動車もありませんよ。