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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

「ええ今日からお手伝いをしてもよろしゅうございますわ。」

昼。

黒いボアに頬を埋めて女主人が出て行った。小女が台所で玉葱を油でいためている。

「一寸! 厭になっちゃうね、又玉葱にしょっぺ汁かい?」

「だって、これだけしか当てがって行かねえんだもの!……」

「へん! 毎日五十銭ずつ取ってて、まるで犬ころとまちがえてるよ。」

ジロジロ睨みあっている瞳を冷笑にかえると、彼女達は煙草をくゆらしながら、「助手さん! 寒いから汚ないでしょうけど、ここへ来て当りませんか!」と云ってくれた。私は何か底知れない気うつさを感じながら襖をあけると、雑然とした三畳の玄関に、女が六人位も坐っていた。こんなに沢山の妊婦達はいったいどこから来たのかしら……。

「助手さん! 貴方はお国どこです?」

「東京ですの。」

「おやおや、そうでございますの、一寸これゃごまめだわよ。」

女達は、あはあは笑いながら何か私のことに就いて話しあっていた。昼の膳の上は玉葱のいためたのに醤油をかけたのが出る。そのほかには、京菜の漬物に薄い味噌汁、八人の女が、猿のように小さな卓子を囲んで、箸を動かせる。

「子供だ子供だと言って、一日延ばしに私から金を取る事ばかり考えているのよ、そして栄養食ヴィタミンBが必要ですとさ、淫売奴のくせに!」