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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

本郷の追分で降りて、ブリキの塀をくねくね曲ると、緑のペンキの脱落した、おそろしく頭でっかちな三階建の下宿屋の軒に、螢程の小さい字で社名が出ていた。まるで心太を流すよりも安々と女記者になりすました私は、汚れた緑のペンキも最早何でもないと思った。

昼。

下宿の昼食をもらって舌つづみを打つと、女記者になって二三時間もたたない私は、鉛筆と原稿紙をもらって談話取りだ。四畳半に尨大な事務机が一ツ、薄色の眼鏡をかけた中年の社長と、××女性新聞発行人の社員が一人、私を入れて三人の××女性新聞。チャチなものなり。又、生活線が切れるんじゃないかと思ったけれど、とにかく私は街に出てみたのだ。訪問先は秋田雨雀氏のところだった。この頃の御感想は……私はこの言葉を胸にくりかえしながら、雑司ヶ谷の墓地を抜けて、鬼子母神のそばで番地をさがした。本郷のごみごみした所からこの辺に来ると、何故か落ちついた気がしてくる。一二年前の五月頃、漱石の墓にお参りした事もあった……。秋田氏は風邪を引いていると云って鼻をかみながら出ていらした。まるで少年のようにキラキラした眼、やさしそうな感じの人である。