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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
飯田さんは、たい子さんの額にインキ壺を投げつけた。唾が飛ぶ。私は男への反感がむらむらと燃えた。「何をするんですッ。又、たい子さんもどうしたのッ、これは……」たいさんは、流れる涙をせぐりあげながら話した。「飯田にいじめられていると、山本のいいところが浮んで来るの、山本のところへ行くと、山本がものたりなくなるのよ。」「どっちをお前は本当に愛しているのだ?」私は二人の男がにくらしかった。
「何だ貴方達だって、いいかげんな事をしてるじゃないのッ!」
「なにッ!」
飯田さんは私を睨む。
「私は飯田を愛しています。」
たい子さんはキッパリ云い切ると、飯田さんをジロリと見上げていた。私はたいさんが何故か憎らしかった。こんなにブジョクされてまでもあんなひとがいいのかしら……山本さんは溝へ落ちた鼠のようにしょんぼりすると、蒲団は僕のものだから持ってかえると云い出した。すべてが渦のようである。――やがて何時の間にか、たい子さんはいち早く山田清三郎氏のところへ逃げて行った。私はブツブツ云いながら三人の男たちと外に出た。カフエーにはいって、酒を呑む程に酔がまわる程に、四人はますますくだらなく落ちこんで来る。