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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

シナそばが一杯たべたく候。

雷門助六をききに行きたく候。

朝鮮でも満洲へでも働きに行きたく候。

たった一度おめもじいたしたく候。

本当にお金がほしく候。

手紙を書いてみるがどうにもならぬ。あのひとにはもうお嫁さんがあるのだ。ただ、なぐさみに歌の文句を書いてみるだけ。

夜。

眠れないので、電気をつけて、ぼろぼろのユジン・オニイルを読む。家主の大工さんが、夜どおし、ろくろをまわして、玩具のコマをつくっている。どのひとも、夜も日もなく働かねば食えない世の中なり。蚊がうるさいけれど、蚊帳のない暮しむきなので、皿におがくずを入れていぶす。へやの中がいぶる。それでも蚊がいる。丈夫な蚊だ。うるさい蚊だ。オッカサンに浴衣を買ってやりたいと思うけど仕方がない。

(八月×日)

爽やかな天気だ。まばゆいばかりの緑の十二社。池のまわりを裸馬をつれた男が通っている。馬がびろうどのような汗をかいている。しいんしいんと蝉が鳴きたてている。

氷屋の旗がびくともしない。

オッカサンも私も背中に雑貨を背負って歩いている。全く暑い。東京は暑いところだ。

新宿までの電車賃をけんやくして、鳴子坂の三好野で焼団子を五串買ってたべる。