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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
お茶は何度でもおかわりして、ああ一寸だけしあわせ。
オニイルは名もない水夫で、放浪ばかりしていて、子供の時は手におえぬ悪童で、大きくなって、ボナゼアリス行きの帆船に乗りこんで粗暴な冒険にみちた生活をしたのだそうだ。偉くなってしまえば、こんな身上話もああそうなのかと思う。私も芝居を書いてみようかな。きそう天外な芝居。それとも涙もなくなる奴。オニイルだって、いつも悲愴な時ばかりではなかったであろう。
時には鼻唄まじりにいいごきげんな時もあったに違いない。
よろよろと荷をかついで、小さいべっぴんさんは暑い街を歩く。どうでもいいのだ。もうやぶれかぶれなのだ。はっきりと路の上にうつした影はひきがえるのように這っている。
哀れなオッカサンが何故私を生んだのだろう。私生児と云う事はどうでもいい事だけれど、オッカサンには罪はない。何の咎める事があろう。世界のどこかのおきさきさまだって私生児を生む事もある。世の中と云うものはそんなものだ。女は子供をうむために生きている。むずかしい手つづきをふむことなんか考えてはいない。男のひとが好きだから身をまかせてしまうきりなのだ。