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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

神楽坂の床屋さんで水をのませて貰う。

今日は縁日で夕方から賑やかなのだそうだ。

きれいな芸者が沢山歩いている。しのぶ売りも金魚屋も出ている。今日は水中花を売るおばさんの隣りに場所割りがきまる。

店を出して、私は雨傘を出してゴザの上に坐る。何とも暑い夕陽だ。夕陽は何処から来るのだろう。じりじりと照りつけるなぎのような暑さ。人通りが馬鹿に多いけれど、パンツも沓下もステテコもなかなか売れそうにもない。オッカサンは下谷までお使い。

市松の紙の屋根を張った虫売りが前の金物屋の店さきに出た。じょうさい屋が通る。

みがきこんだおかもちをさげたてぬぐい浴衣の男が、自転車に片足かけて坂をすべってゆく。

華やかな町の姿だ。一人だって、雨傘をさしてしゃがんでいる女には気にもとめない。

おえんまさまの舌は一丈

まっかな夕陽

煮えるような空気の底

哀しみのしみこんだ鼻のかたち

その向うに発射する一つのきらめき

別に生きようとも思わぬ

たださらさらと邪魔にならぬような生存

おぼつかない冥土の細道から

あるかなきかのけぶり けぶり

推察するようなただよいもなく

私の青春は朽ちて灰になる、

本当の事を云って下さい