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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
不如帰の浪子さんが千年も万年も生きたいなんて云ってるけれど、あまりに人の世を御ぞんじないと云うものだ。花は一年で枯れてゆくのに、人間は五十年も御長命だ。ああいやな事だ。
私は天皇さまにジキソをしてみる空想をする。ふっと私をごらんになって、馬鹿に私が気に入って、いっしょにいいところにおいでとおっしゃるような夢をみる。夢は人間とっておきの自由だ。天皇さまに冷酒とがんもどきのおでんをさしあげたら、うまいものだねとおっしゃるに違いない。私はなぜ日本に生れたのだろう。シチリヤ人と云うのがあるそうだ。音楽が大変好きなのだそうだ。私はシチリヤ人がどんな人種なのか見たことがない。
不意にカナカナが啼きたてた。夕焼がだんだん妙な風に蒼ずんで来ている。
(九月×日)
夜が明けかけて来たけれど、どうにもならない。
昨夜は蒲団を売る事にきめて安心して眠ったのだけれど、こう涼しくては蒲団を売るわけにもゆかない。葛西善蔵と云うひとの小説みたいにどうにもならなくなりそうだ。私は別に酒が飲みたいよくもないけれど、生きようがないではありませんか。
らっきょうと、甘いうずら豆が食べたい。