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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
私は熱い酒を母のチョコと私のチョコについだ。酒が泡を吹いている。盃がまた涙でくもってぼおっと見えなくなる。私はたてつづけに三四杯飲む。酒が胸に焼けつくようだ。壁の鏡のそばで、学生が二人夕刊を読みながら、焼飯を食べている。母も眼をつぶって盃を口へ持って行っている。二本目の酒を註文して、また独りで飲む。心の中がもうろうとして来る。母はよせなべのつゆを皿盛りの御飯にかけてうまそうに食べている。
空腹に酒を飲んだせいか、馬鹿に御めいてい。私は下駄をぬいで椅子に坐った。両手の中に顔を伏せていると部屋のなかがシーソーのようにゆらゆらとゆれる。何も思う事はない。只、ゆらりゆらり体がゆれているきり。不ざまな卑しい女は私なのよ。ええ、そうなの……まことにそうなンです。蛆が降りかかって来そうだ。
盃に浮いた泡をふっと吹く。煮えたぎった酒。おっかない酒。しどろもどろの酒。千万の思いがふうっと消えてなくなってゆく酒。背中をなでて貰いたい酒。若い女が酒を飲むのを、妙な顔で学生が見ている。世間から見ればおかしなものに違いない。だいぶあたたまったのか、母も椅子の上にちょこんと坐った。