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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

それが証拠には、産婆の広告も毎日やって来る。子供やりたしとか、貰いたしとか、いかようにも親切に相談とか。広告を書きながら、私は私生児を産みに行く女の唸り声を聞くような気がする。

そして、私は、毎日、いぼさんから八十銭の日給を頂戴してとことこ本郷まで歩いて帰るのだ。

感化院。養老院。狂人病院。警察。ヒミツタンテイ。ステッキガール。玉の井。根津あたりの素人淫売宿。あらゆる世相が都会の背景にある。

或る作家曰く、三万人の作家志望者の、一番どんじりにつくつもりなら、君、何か書いて来給え……。ああ、怖るべき魂だ。あの編輯者が、私を二時間も待たせる根性と少しも変りはない。

私は生涯、この歩道の天幕の広告取りで終る勇気はない。天幕の中は六月の太陽でむれるように暑い。ほこりを浴びて、私はせいぜい小っぽけな鉛筆をくすねるだけで生きている。

北海道の何処かの炭坑が爆発したのだそうだ。死傷者多数ある見込み……。銀座の鋪道はなまめかしくどろどろに暑い。太陽は縦横無尽だ。新聞には、株で大富豪になった鈴木某女の病気が出ている。たかが株でもうけた女の病気がどうであろうと、犯罪は私の身近にたたずんでいる。