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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
ゴム管で聴く蓄音機
ホーマーの詩でもあるのかな
深山の薄雪草にも似た宵
綿の水を吸って絹糸草が青い
水中花はコップの中で一叢
アルペンの高山植物らしく
男を売る店は一軒もない
乾いた海ほうずきの紅色
心臓が黙って歩いている
ああ五時間もすれば
またどんな人生がやって来るのだろう
不可能のなかに後退してゆく脚
少しずつ思いの色が変化する
ゴマ入りの飴玉をしゃぶる
縁には紐のない玉手箱。
(七月×日)
英子さんが一緒に大阪へ行かないかと云う。大阪へ行く気はしないけれど、岡山へは帰りたい。久しぶりに、母にも逢いたいものなり。英子さんの旦那さんより十円かりる。岡山まで行きさえすれば、帰りは何とかなるだろう。昼、西片町に荷物を取りに行く。メダカ女史が荷物と、五十銭玉六つくれる。この本は、貴女のではないでしょうと云って、伊勢物語を出して来る。はい、私のですと云うと、いいえ、これはうちの本ですと云う。何だかシャクゼンとしないので、これは、私が夜店で買ったのだからと、台所にいつまでも立っていた。メダカ女史しらべて来ると云って引っこんでいったけれど、暫くして黙って、「勉強家ね」と云って持って来る。