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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

「寿司屋もつまらないし……」

外は嵐が吹いている。キュウピーよ、早く鳩ポッポだ。吹き荒さめ、吹き荒さめ、嵐よ吹雪よ。

*

(四月×日)

地球よパンパンとまっぷたつに割れてしまえと、呶鳴ったところで私は一匹の烏猫だ。世間様は横目で、お静かにお静かにとおっしゃっている。又いつもの淋しい朝の寝覚めなり。薄い壁に掛った、黒い洋傘をじっと見ていると、その洋傘が色んな形に見えて来る。今日もまたこの男は、ほがらかな桜の小道を、我々同志よなんて、若い女優と手を組んで、芝居のせりふを云いあいながら行く事であろう。私はじっと背中を向けてとなりに寝ている男の髪の毛を見ていた。ああこのまま蒲団の口が締って、出られないようにしたらどんなものだろう……。このひとにピストルを突きつけたら、この男は鼠のようにキリキリ舞いをしてしまうだろう。お前は高が芝居者じゃないか。インテリゲンチャのたいこもちになって、我々同志よもみっともないことである。私はもうあなたにはあいそがつきてしまいました。あなたのその黒い鞄には、二千円の貯金帳と、恋文が出たがって、両手を差し出していましたよ。