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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
この眼が一等いやなのだ。私はまるで犯罪人になったようなうらぶれた気持ちで昼の駅へ行く。
羊かんを買わないで、弁当を買う。三等の待合室で弁当を食べる。売店で青いバナナを二本買う。五銭也。
少しばかりの金が、こんなに勇気づけてくれる。公園でのびのびとラムネを飲めばよいものを、銭勘定をしながらびくびくして飲んだ事に腹立たしくなる。中根さんは別に厭な女でもないのに、吐気がする程厭に思えて来る。御馳走をした上に、びくびくして、中根さんにへりくだってものを云っている自分にやりきれなくなっていた。小説はうれるの? いいえ売れないのよ。どんなものを書いているの? どんなものって、童話みたいなものよ。一々あやまって返事をしていたようなみじめさが話していながら、ああ駄目だ駄目だと中根さんに押されて来る。奴隷根性。いつもぺこぺこ。何とかして貰うつもりもないのに笑顔をつくってへりくだってみせる。
詩や小説を書くと云う事は、会社勤めのようなものじゃありませんのよと心の中でぶつくさ云いわけしている。
尾道へ着いたのが夜。
むっと道のほてりが裾の中へはいって来る。とんかん、とんかん鉄を打つ音がしている。