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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

折角、どうにか、私が私一人の暮しに落ちつきかけると、二人は押しかけて来て、いつまでも同じ事のくりかえしなのである。東京で別れたところで、お義父さんはさしずめその日から困るンじゃからのうと、また、ぽつりと母が云う。私は煎りついて臭くなってきた鍋を台所へ持って行った。母は呆気にとられている。何をさせても無駄づくりみたいな母の料理が気に入らない。私は火鉢のかっかっと熾った火に灰をかぶせて、瀬戸引きのやかんをかける。

「何を当てつけとるとな、お前の弁当のおかずをつくってやろうと思うて焚いとるんじゃが……」

私はそんな真黒いおからのおかずなんかどうでもいいのだ。黙って寝転んで、袖の中へすっぽりと頭も顔もつっこんでいると、母は急に鼻を荒くすすりながら、わし達が邪魔なら、今夜にでも荷造りをして帰ると云い始めた。木綿裏の袂の中に秋の匂いがする。おおこの匂い。季節の匂い、慰めの匂い。袂の中で眼を開けると、真岡絣の四角い模様が灯に透いてみえる。お前はお父さんをどうして好かんとじゃろか? と母が泣きながら云う。あンたよりも二十歳も若い男をお父さんなぞと云わせないでよとはんぱくする。