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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

「たい子さんとこは、信州から米が来たって云っていたから、あそこへ行って見ましょうか。」

「そりゃあ、ええなあ……」

そばにいた伝治さんの細君は、両手を打って子供のように喜んでいる。ほんとうに素直な人だ。

(六月×日)

久し振りに東京へ出て行った。新潮社で加藤武雄さんに会う。文章倶楽部の詩の稿料を六円戴く。いつも目をつぶって通る神楽坂も、今日は素敵に楽しい街になって、店の一ツ一ツを私は愉しみに覗いて通った。

隣人とか

肉親とか

恋人とか

それが何であろう

生活の中の食うと云う事が満足でなかったら

描いた愛らしい花はしぼんでしまう

快活に働きたいと思っても

悪口雑言の中に

私はいじらしい程小さくしゃがんでいる。

両手を高くさしあげてもみるが

こんなにも可愛い女を裏切って行く人間ばかりなのか

いつまでも人形を抱いて沈黙っている私ではない

お腹がすいても

職がなくっても

ウオオ! と叫んではならないのですよ

幸福な方が眉をおひそめになる。

血をふいて悶死したって

ビクともする大地ではないのです

陳列箱に

ふかしたてのパンがあるけれど

私の知らない世間は何とまあ

ピヤノのように軽やかに美しいのでしょう。