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めいじびじんでん

新編 近代美人伝 (上)

長谷川 時雨

長谷川時雨『新編 近代美人伝 (上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治美人伝、明治大正美人追憶、樋口一葉、一世お鯉、大橋須磨子、竹本綾之助、豊竹呂昇、平塚明子(らいてう)、松井須磨子、芳川鎌子。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,076 字 · 256 页

青空文庫

純白な布の上におかれた、小花瓶の、猖々緋の真紅の色を、見るともなく見詰めていた。

控間では一時騒めいていたが、

「貴女もお湯にいらっしやる」

「ええ」

「じゃ御一緒に行きますから待ってて頂戴な」

静かになった。すると、此家でか、または裏の家でか、下の方の裏で物音がした。

「お風呂がもう沸きますが……」

「自動車になさいますか、おくるまになさいますか?」

下男といった調子に聞えた。やがて何処からともなく、お皿やホークの音が、時々ガチャガチャと聞えた。

もう朝じゃあない、此店では商業をはじめたな、と思ったときに戸はノックされた。

五

美しいお鯉――わたしは手箱に秘めてあったものが、ほどへて開いて見たおりに、色も褪ずにそのままあったように、安心と、悦びと、満足の軽い吐息が出るのを知った。

お鯉さんは朝のままで、髪も結いたてではなかった。別段おめかしもしていなかった。無地の、藍紫を加味したちりめんの半襟に、縞のふだん着らしいお召と、小紋に染めたような、去年から今年の春へかけて流行ったお召の羽織で、いったいに黒ずんだ地味なつくりであった。

かわらないのは眉から額、富士額の生際へかけて、あの人の持つ麗々しい気品のある、そして横顔の可愛らしさ、わたしは訪ねて来て、近々と見ることの甲斐のあったのをよろこんだ。