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めいじびじんでん
新編 近代美人伝 (上)
長谷川 時雨
長谷川時雨『新編 近代美人伝 (上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治美人伝、明治大正美人追憶、樋口一葉、一世お鯉、大橋須磨子、竹本綾之助、豊竹呂昇、平塚明子(らいてう)、松井須磨子、芳川鎌子。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,076 字 · 256 页
あたしはちっとも恐かないから嫌だ」
ここにおいてお鯉の目には明治の元勲井上老侯もなければ、財界の巨頭たちもないのであった。たかが女一人を――その財産を、自由を、子供の教育を、何もかもを、女と侮って、寄ってたかって、何のために押えつけようとするのであろう。それも旦那の生前に頼まれていたとでもいうのならいざ知らず、横合から飛出して来たおせっかいである。
千金の壺だといっても、その真価を知らぬものには三文にもあたいしない代物としか見えない。さすがの老侯も物質尊重のお歴々には、あがめたてまつられている御本尊であるが、お鯉にとっては、おせっかいな世話やき爺に過ぎない。世外どころか、おせっかいにも、他家の台所の帳面まで取りよせて、鼻つまみをされる道楽があった。天下の台所の世話やき、お目附けは結構でも、老いては何とやらの譬え、ついには他人の妾の台所まで気にするようになられたものと見える。
さはあれ引っ込みのつかなくなったのは、実に思いがけない事であろう。天下に、この俺にむかって楯をつくものがあろうかと思っている鼻さきを、嫌というほどにへし折って、そのあげくの口上がこれである。