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めいじびじんでん

新編 近代美人伝 (上)

長谷川 時雨

長谷川時雨『新編 近代美人伝 (上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治美人伝、明治大正美人追憶、樋口一葉、一世お鯉、大橋須磨子、竹本綾之助、豊竹呂昇、平塚明子(らいてう)、松井須磨子、芳川鎌子。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,076 字 · 256 页

青空文庫

わたしはぴったりとその女の胸に触れたことがないので、情の人か、理智の人かそれすら知らないが、悧巧な人であることは言わずもがなであろう。

わたしの思出は、また紅葉館の、あの広々とした二階の一室へともどる――

台広の駒の、上方唄の三味線の音がゆるく響くと、涙がくゆってくるのであった。わたしの妙に思いやりのある心は、そうしたおりに意地悪く、この幸運な女と、向いあって坐っている人の上に廻ってゆくのであった。聞きしみていた三味線の、絃の顫えから、雫してくるものが、妙にわたしの胸を一ぱいにさせるのであった。

長唄でも、富本でも、清元でも、常磐津でも、おしかさんは決して何処へでても負けはとらない腕利きで、大柄な、年の加減ででっぷりして来たが、若い時分にはさぞと思われる立派な、派手な顔立ちで、京生れで言葉は優しいが、色はたいして白くはない。眉毛のくっきりしている髪の毛の実に好い女だった。

紅葉館が明治十幾年かに創業のおりは、当今の女優気分と、カフェーの給仕気分と、いにしえの太夫の気分とを集めたものへ、芸妓の塩梅と、奥女中のとりなしとを加減して、そのころの紳士の慰楽の園としようとした目論見で、お振袖を着せて舞わせもし、またすっきりと水ぎわの立った粋な酌人も交ぜた。