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めいじびじんでん

新編 近代美人伝 (上)

長谷川 時雨

長谷川時雨『新編 近代美人伝 (上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治美人伝、明治大正美人追憶、樋口一葉、一世お鯉、大橋須磨子、竹本綾之助、豊竹呂昇、平塚明子(らいてう)、松井須磨子、芳川鎌子。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,076 字 · 256 页

青空文庫

「若かったから辛抱しられたのです。とてもいまじゃあ……」

というのである。でも、知っているものは、そうでしょうともといった。

若い心には、正直な一生懸命さがある。彼女も昨日までの華やかな世界を捨て、小禽のようにおどおどとして舅姑につかえたのだろう。

大橋家は、もうその頃では有数の資産家として、書籍出版業としても第一の店となっていたが、父子ともに計って富を一代に築きあげた、立志伝中の一家であった。越後の寒村から出て来て、柳原河岸に古本の店を出していた時分は、いまだ時節が到来せず、かなりな苦境におち、赤貧のおりもあったが、姑は良き妻、好き母であって夫にも子にもその苦しみを訴えず、出来るかぎりを尽して働くものの口を糊した。それに励まされた父と子は、あれかこれかの末に、印税の入らぬ古い物語を集めて新らしく組み直して売り拡めた。時代の嗜好に合した意外の成功に、次から次へと手を拡げて、当りつづけ、新しく戦争成金の続出のために、むかしからの資産家のように見なされてしまうように、幸運は何日も家の棟の上にいた。烱眼よく人世必要の機微をとらえ、学者、文人、思想家を、店員なみに見なすような巨豪になったとはいえ、その成功はみな書物の貴さによってだった。