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めいじびじんでん
新編 近代美人伝 (上)
長谷川 時雨
長谷川時雨『新編 近代美人伝 (上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治美人伝、明治大正美人追憶、樋口一葉、一世お鯉、大橋須磨子、竹本綾之助、豊竹呂昇、平塚明子(らいてう)、松井須磨子、芳川鎌子。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,076 字 · 256 页
いかほど用心深い性質でも、若い女には若い血潮が盛られている。十九の一葉はその人を心から兄と思い慕った。そしてその慕わしさは恋心となった。
「よもぎふ日記」二十六年四月六日の記に、
こぞの春は花のもとに至恋の人となり、ことしの春は鶯の音に至恋の人をなぐさむ。
春やあらぬわが身ひとつは花鳥の
あらぬ色音にまたなかれつゝ
とある末に、
もゝのさかりの人の名をおもひて、
もゝの花さきてうつろふ池水の
ふかくも君をしのぶころかな
とある。桃の花のうつらう水というのこそ、彼女の二なき恋人の名なのである。その人こそ現今も『朝日新聞』に世俗むきの小説を執筆し、歌沢寅千代の夫君として、歌沢の小唄を作りもされる桃水、半井氏のことである。
半井氏を一葉はどれほど思っていたであろうか、そして半井氏は――
昔時は知らずやや老いての半井氏は、訪客の談話が彼女の名にうつると、迷惑そうな顔をされるということである。そして一ことも彼女については語らぬということである。関如来氏の談によれば、ある日朝から一葉が半井氏を訪ねたことがある。彼女の声が、訪れたということを格子戸の外から告げられると、二階に執筆中の半井氏は不在だと言ってくれと関氏に頼んだ。