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いちかわくめはち

新編 近代美人伝 (下)

長谷川 時雨

長谷川時雨『新編 近代美人伝 (下)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:市川九女八、江木欣々女史、遠藤(岩野)清子、大塚楠緒子、九条武子、朱絃舎浜子、田沢稲船、柳原燁子(白蓮)、モルガンお雪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,172 字 · 277 页

青空文庫

「何をそんなに眺めているの。」

「海を。」

彼女は、何かわたしが計画んでいるなと見破っていた。わたしが突然に行って、歩こうなぞということから例外すぎるのだったから。

「海なら、佃からでも、あたしの宅の座敷からも見えるのに。」

「うん、でも、歩いて見たかったの、芒村から、横浜新田を眺めた、昔の絵が実によかったものだから。」

そんなことつけたりで、先刻、横浜駅前の(現今の桜木町駅)鉄の橋を横に見て、いつもの通り、尾上町の方へ出ようとする河岸っぷちを通ると、薄荷を製造している薄荷の香いが、爽快に鼻をひっこすった、あのスッとした香を思いだして、私は一気に言った。

「坪内先生の浦島ね、竜宮のところだけ、作曲してもらいたいの。」

「だめ、だめ。」

浜子は強い近眼鏡を光らして、呆れたように、

「あなたは、あたしを買いかぶりすぎている。」

「いいえ、臆病だとさえ思っている。他の人は、七、八分もった才能を、十二分にまで見せている。浜子さんは、十二分にもっているものを、一、二分しか見せない。それも、よんどころない時だけにね、けちんぼ。」

それっきりで、二人は黙りあって、いつまでも腰をかけていた。