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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
長谷川時雨『新編 近代美人伝 (下)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:市川九女八、江木欣々女史、遠藤(岩野)清子、大塚楠緒子、九条武子、朱絃舎浜子、田沢稲船、柳原燁子(白蓮)、モルガンお雪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,172 字 · 277 页
田沢稲船
一
赤と黄と、緑青が、白を溶いた絵の具皿のなかで、流れあって、虹のように見えたり、彩雲のように混じたりするのを、
「あら、これ――」
絵の具皿を持っていた娘は呼んだ。
「山田美妙斎の『蝴蝶』のようだわ。」
乙姫さんの竜の都からくる春の潮の、海洋の霞が娘の目に来た。
山田美妙斎は、尾崎紅葉、川上眉山たちと共に、硯友社を創立したところの眉毛美しいといわれた文人で、言文一致でものを書きはじめ『国民の友』へ掲載した「蝴蝶」は、いろいろの意味で評判が高かったのだ。
源平屋島の戦いに、御座船をはじめ、兵船もその他も海に沈みはてたとき、やんごとなき御女性に仕えていた蝴蝶という若い女も、一たん海の底に沈んだが、思いがけず、なぎさに打上げられた。それは春の日のことで、霞める浦輪には、寄せる白波のざわざわという音ばかり、磯の小貝は花のように光っている閑かさだった。見る人もなしと、思いがけなく生を得た蝴蝶は、全裸になった――そのあたりを思いだしたのだ。
「あたし、小説を書こう。」
十七の娘、田沢錦子は、薬指ににじむ、五彩の色をじっと見ながら、自分にいった。
空はまっ青で、流れる水はふくらんでいる――