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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
長谷川時雨『新編 近代美人伝 (下)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:市川九女八、江木欣々女史、遠藤(岩野)清子、大塚楠緒子、九条武子、朱絃舎浜子、田沢稲船、柳原燁子(白蓮)、モルガンお雪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,172 字 · 277 页
花の香に酔ったように、差出されるままに買いこんでは抱えた。何処から尾いて来たのか、籠をしょった、可愛い伊太利亜少年が傍にいて、お雪が抱えきれなくなると、背中の籠へ入れさせた。
「夫人、夫人。ああ好い夫人だ。お美しいお顔だ、お立派なお召物だ。」
花売りの女たちは、しきりに買手の女たちを褒めている。そうかと思うと、
「なんだ、お前なんかに、こんな好い花が買えるものか。この好い匂いがわからないんだ。けちんぼう女。」
と、いくら進めても買わない客の後姿に罵っている。
「あら、鮮魚が――」
お雪は、鮮魚の店へひっかかって、掬い網を持ってよろこんだ。
大きな盤台に、ピチピチ跳る、地中海の小魚が、選りどりにしゃくえた。ヒラヒラと魚躰をひるがえすたびに、さまざまの光りが、青い銀のような水とともにきらめいた。また一人の少年が、お雪のお小姓のように、すぐにそれを受けとっている。
お雪は、ふと、美しい着物は着ていたが、なんにも、購いたいものも購えなかった、芸妓時代の窮乏を思いうかべた。それよりももっと、幼年時代、新京極あたりの賑やかな町を通っても、金魚店の前に立っているだけで、自分で思うように、しゃくって買った覚えのない、丸い硝子玉の金魚入れがほしかった事を、思い出すともなく思いだしていた。