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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
長谷川時雨『新編 近代美人伝 (下)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:市川九女八、江木欣々女史、遠藤(岩野)清子、大塚楠緒子、九条武子、朱絃舎浜子、田沢稲船、柳原燁子(白蓮)、モルガンお雪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,172 字 · 277 页
――進んでノラともなれず、退いて半獣主義に同化することも出来ない。恋と思想と一致しない。私たちは常に絶えざる苦悶と懊悩とを免かれない。しかも君に対する恋の執着はどうすることも出来なくなっている――
それは偽りのない彼女の告白だ。
泡鳴は、金が出来たら広い場処に移って、鍵のかかる部屋をつくってあげようといい、結婚式は立派にしようと、優しくいった。
けれど、けれど、清子の思想は主張は、強かった。四十三年の一年は、その相剋をつづけて、四十四年の一月、熱海への三泊旅行も、以前の関係のままで押通した。
熱海の間歇温泉ではないが、この、珍無類夫妻の間には、間歇的に例の無言の闘争が始まるのだった。そして、彼女は終日唖になり、泡鳴はいろいろの所作をした。
「泣いたり、怒鳴ったりするのは、まだ悲しみや怒りの極みじゃない。悲痛の極は沈黙だ。沈黙が最も深い悲痛だ。」
と、泡鳴は言った。
飽満の後にくるたるみならば、まだ忍べるが、根本の愛の要求に錯誤があるからだと、彼女は悩みになやみぬいた、その夜の夜明けに、いよいよ気分をかえて、新しく彼を愛してゆこうと決心した。
「理智の判断を捨ててしまって、盲目に恋に身を投げだそう。