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ほうそくについて
方則について
寺田 寅彦
「理学界 第十三巻第四号」1915(大正4)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,493 字 · 17 页
ペンに働く力はまだこれに限らぬ。空気の浮力はかなりの影響がある。しかしてこれにはその室内の気温、気圧、湿度が直ちに関係する。また微弱な気流でもその落下の方向速度を変える事は明白である。しかるにこれらの温度や気流等はまた室内のみならず室外全宇宙の現象の影響を受けぬ訳には行かぬ。なおこのような影響を及ぼすものを列挙すれば巻を更えても尽す事は出来まい。
それならばペンの目方を指定しその落下の状況を予知するには、単に緯度や高さや温度や気圧を知るのみならず全宇宙の現状を知悉する事が必要であろうか。力学物理学の教科書を繙いてみると極めて簡単な言葉で重力の方則や落体運動の方則が述べてある。吾人はこれらの方則に信頼して目方を比較し時計を使用して別に著しい不都合を感じない。これは不思議ではあるまいか。もしこれが何でもない事で分り切った事であったならば、世俗の人が科学を誤解し学者を唐変木視する気遣いは更にないはずである。
次にゼンマイ秤で物の目方を衡る場合を考えてみよう。不断に変化する宇宙全体が秤皿に影響してその総効果が収斂しなかったら一物の目方という定まった観念を得る事は出来まい。