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ほうそくについて

方則について

寺田 寅彦

「理学界 第十三巻第四号」1915(大正4)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,493 字 · 17 页

青空文庫

それにもかかわらず三尺の糸と云えば吾人の頭脳には一定の観念を与えるような気がして言葉咎めをされる虞は先ずない。これは何故であろう。もしこれが分り切った事であれば、すべての世人は皆科学者でなければならない。

撚り糸も針金もあらゆる弾性体否形状大小を備えた物体は皆同様である。もしも履歴の影響が時とともに速やかに漸進線的に収斂しなかったらどうであろうか。すべての物体は雲煙のごとくまた妖怪変化と類を同じうするだろう。

重量約一匁とか長さ約一寸といえば通例衡り方度り方の粗雑な事を意味する。丁度一匁とかキッチリ一寸など云えば大変に正確に聞えるが、精密とか粗雑とかいうのも結局は相対的の言葉である。人智の測り得る所いずれか粗雑ならざらんやである。丁度と云いキッチリというのも約というのも根本的の相違はない。一尺の竹の尺度を百本比較すれば百本ながら違っている。丁度一尺という長さは抽象であって現実にはない。一メートルの標準尺度の二つの目盛りの中心の間を単位とすれば一メートルの尺度はそれただ一つである。そして頼みに思うその唯一の長さは、実は前に煩わしく述べたような訳であまり一定なものではないのである。