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まさことまき

方子と末起

小栗 虫太郎

「週刊朝日読物号」朝日新聞社、1938(昭和13)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,517 字 · 24 页

青空文庫

女中の証言には、その前夜口論があったという。……さまで、悪くないおゆうには謙吉からはなれている、夜々のことが時々佗びしくなり、そういうときには、なにかにつけ辛く母に当り、その夜も、まきの賺める声を廊下で聴いたというのだ。心理学者は母性愛と並行する母性憎があるという。その愛憎並存を老齢のまきにあてて、この事件はますます疑雲におおわれてしまった。

老齢によくある耗弱の発作だろうか。そうとすれば、まさにその後のまきは酬いだといってもいいのだ。

手も、足もうごかず、口も利けず、いずれは車椅子のなかで一生を終るだろうが、そうして、ただ呼吸をし、ぼんやりと見るまきの様は正視の出来ないものだ。刑罰か――死ぬに死ねない、惨苦を味わいながら余生を送らねばならぬのは……。

末起も、それについて折ふし考えさせられた。

(こんな良いお祖母さまが、そんなおおそれたことをするとは、どうしても、そうは私には思えない。口が利けたら、手足がうごいてものが書けたら……。きっと、お祖母さまの口から、途方もない事実が出るだろう。こんな良い人の、お祖母さまが悪魔になれるもんか)

末起は、ひとりでそういうように、決めていた。