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たびやくしゃのつまより
旅役者の妻より
矢田 津世子
「文学界」1934(昭和9)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,566 字 · 14 页
あるとの医者の言葉、良人はまた良人で当地方の気候にまけ脳をわるくする始末、夏の初め、舞台で卒倒して以来体の衰弱がはなはだしく、果ては寝こんで舞台を休む様な悪運つづき、加うるに鶴江まで疫病にかかり発熱して食べものがそのまま出るというような有様にて、悲惨と申すも言葉の現わしようもなく、何事も前世にて犯せし罪の報いと諦めて居りました。
余りの事に良人も心細くなりましたものとみえ、しきりに岡村へ皈りたがり、おれも、もう五年も皈らぬし、伊助も休暇で皈る頃故あれの顔もみたいから一度戻ってみようではないか、達者になったら今度は岡村の近く、呉近所で働こう、何よりも生れた土地の近くが一等だ、など言いまして涙ぐむ仕末に、わたくしも心動かされ、旅費には困るけれど幸い大阪直行の汽船が三津につきます故、荷物を売り払ってでも皈ろうと存じ、岡村のあに様へ加様の次第故加様に思うていると言ってたよりを出しましたところ、あに様よりの返事には今、落ちぶれた姿で皈られては世間への手前もあり考えものである。自分にとってはたった一人の血を分けた弟であるし、そんなに困っているなら何んとかつくしたいのは山々であるが、何せ伊助も商業へ出していること故なかなか金がいるし、それに当今はゴム靴ばやりの事とて店の方もとんと売れゆきが減り、自分も永年の下駄商にみ