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ひびのうつり
日々の映り
宮本 百合子
「文芸集団」(名古屋帝国大学医学部学生の同人誌)、1939(昭和14)年第1号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,131 字 · 16 页
「私、アパートへ住んでああいう眼付になるのは絶対にいやよ」
口のまわりに痛いような表情をうかべて云った。
「何でも自分の生活の環のそとのものとして離して見ているようで、しかもその底で何かがっついたところのある眼。ああいう眼になるのは本当にいや」
「だって、あのひととあなたとは、生活がまるで違うじゃありませんか、生活の問題だわ」
ひろ子には重吉も居りという、その意味はわかるけれども、ひろ子の印象のなかでは、自分の顔の前にあくドアとその眼とがやはりきりはなせないつながりをもっているように迫るのである。
どうしても、アパート住居をしなければならないというのでもないのに、と二人は声を揃えて笑ったが、やがて友子はしんみりと、
「本当に誰かいいひと見つけたいわねえ、あなたと住むことの出来る。――そうすれば私たちも安心だのに」
改めて、記憶の隅までをさぐり直す表情で、毛糸の玉をころがしつつ黙って編棒を動かしていたが、
「ちょっと!」
坐り直すほど気ごんで、
「乙女さん、どうなのかしら」
「――東京にいるのかしら」
軽々しくよろこぶには嬉しすぎる、そういう気持のあらわれた顔で、ひろ子は却って妙にうたがわしそうにゆっくり云った。