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ひはかがやけり

日は輝けり

宮本 百合子

「中央公論」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页

青空文庫

咲二が壁土をたべる癖の起ったのは、いつごろからだか誰も、はっきり知るものはなかった。が、ともかくお咲が見つけたのだけでも、今度で四度目である。一番最初には、茶の間の隅で、何だかしきりに食べている彼の口のまわりが、泥だらけになっているのから、気のつき出したことであった。

何だか並みでないところのある息子を、どうぞ一人前に成人出来るようにと、全力を尽しているお咲は、どんなに情けないか分らなかった。恥かしくって人にも聞かされない。行燈の油をなめるものがあったという話を思い出すと、たまらなかったのである。

「何という情けないことだろうねえ。咲ちゃん! お前はどうして母さんが、こんなにいけないと云うのに聞き分けないの?(お咲は急に声をひそめて、彼の耳の辺でささやいた。)壁を食べるなんていうのは、お乞食だってしませんよ。どうぞ止めて頂戴、ね? 母さんこうやってたのむわ」お咲は泣きながら、咲二の前に跪ずいて、両手を合わせた。けれども彼はけろんとしていた。お咲は突っかかって来る悲しみを、押えきれないで、塵くさい咲二の足につかまって泣き伏してしまった。それでも咲二は、涙を浮べさえしない。