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ひはかがやけり

日は輝けり

宮本 百合子

「中央公論」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页

青空文庫

まあ書き給え、僕は湯にでも行って来ようや!」

浩は、片手で耳をおおうようにしながら、小学の子供の書く通りに、一字一字に粒のそろった、面の正しい字を書き出した。のろのろと筆を動かしてゆくうちに、彼の心持は次第に陰鬱になってきた。不幸な運命の、第一の遭遇者である彼の父、孝之進の、黒い眼鏡をかけた※れた姿。優しい老母。気の毒な姉。

家柄からいえば、孝之進は名門の出である。けれども、若いときから、生活の苦味ばかりを味わってきた。ちょうど彼が出世の第一歩を踏み出そうとしたときに起った、政治上、社会上の大津浪が、家老という地位をも、先祖伝来の家禄をも、さらって行ってしまったので、彼の一生はもうそのときから、すべて番狂わせになった。文部省の属吏を罷められてから、村長を勤めたことがあるというだけの履歴は、内障眼で社会的の仕事から退かなければならなくなってからの、彼等一家の生活を保障するには、何の役にも立たなかった。

世間並みの立身を望んで焦るには、孝之進は年をとりすぎたし、また不治の眼疾をどうすることも出来なかった。で、求めて得られなかったあらゆる栄誉、名望、目の醒めるような出世を、ひたすら息子の浩にのみ期待した。