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ひはかがやけり

日は輝けり

宮本 百合子

「中央公論」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页

青空文庫

好意ずくの発案ではあるが、浩はただ単純にそれだけのこととは感じられなかった。もとより、考えなく口には出せなかったが、養生に帰国という名義が、永久の帰国の端緒となりはしまいかと案じられた。お咲が離別ということをどのくらい怖がっているかということは、浩によく分っている。嫁に来るとき、黒光りのする懐剣を、ピッタリ膝元にさしつけて、孝之進が、「帰されるようなことをしでかしたら、これで死骸になって来い。自分で死なれなかったら、いつでも俺が殺してやる!」と、睨みつけたときには、もうほんとうに身の毛のよだつほど怖ろしかった、とお咲はよく話していた。そして、父親の気性を知っているお咲は、それが決して嘘ではないと思ったので、こうして今日まで、ただ諦め一つで堪えて来たのも、一つはその耳底について離れない、こえのためでもある。荷物の中にも持っては来たが、その懐剣は、おらくの注意でまた取りかえされた。そういうものを持っていると、魔がさすと云うのである。そして、もう一年も前にどこかへ売られてしまったことだけは、お咲は知らなかった。どんなところにいても不幸から離れられない自分だと、思っているお咲はちょっとも、今の生活からのがれたくはなかった。