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ひめくり

日めくり

壺井 栄

「群像」1963(昭和38)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页

青空文庫

「並川文吉と、並川元子が、手をつないで歩いている。人がみたらおかしいでしょうね」

「知らんよ、だれも」

「ただのふとっちょばあさんが、ただのやせっぽちじいさんにいたわられてるおかしさだけ?」

「…………」

「詩人の並川文吉くんも、作家の並川元子さんも、元気ないわね」

「そうかね」

「そうよ。ここで若い者にどうかなられるなんてことになると、逆さごとですからね。――私やあなたが病みつくにしろ、死ぬにしろ、それは巡儀だけれど」

不吉な予感に、並川元子の声はふるえだしていた。

「かわいそうだ」

と並川文吉の声も沈んでいる。

「私たちが?」

元子はわざと聞きかえした。

「山形くんがさ。これからというときになって、たおれたんだからね。口惜しかろう」

元子も同じように、

「女房子供だって、かわいそうじゃない」

云ってもしようのないことをまたくりかえしている。そして、大してなぐさめにもなりそうにない花などをもって、苦痛にうめいている娘婿の枕辺を訪れようとしているのだ。それは病人をよけい苦しめることにもなりかねない場合だってあるにちがいないが、さりとて、一日も放ってはおけない。苦しんでいればその苦しみの渦の中に一しょにまきこまれることで自分をもなぐさめているのかもしれないが、朝に晩に病室を訪れて、なにかをたしかめねば気がすまなくなっているのだ