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ひびのパン
日日の麺麭
小山 清
「新女苑 第二十巻第四号」実業之日本社、1956(昭和31)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,039 字 · 11 页
末吉は説明書きの中に見える「私刑」という言葉に気をとられた。末吉の念頭にそのときの若者の殺気立った目つきとそれに乗じていった自分の心の動きが思い起された。
末吉は写真をおしづに乳をふくませているおしげに見せた。末吉は自分の心に生じた思いは語らずに、
「おい。この女はまる坊主にされているぜ。」
おしげも気をひかれて写真を見ていた。
「きっと戦争中は威張っていたのよ。」
「大きにそうかも知れない。」
「この子はおしづよりは小さいようね。」
「そうだな。」
夫婦はそんな会話をした。
おしげはおしづの下を身籠ったが、悪阻の時期に悪性の感冒にかかって、それがもとで死んだ。
それは末吉にとっては生れてはじめての経験であった。末吉はおしげが自分にとって、この世の風雪を凌いで生きてゆくのに無くてはならぬ伴侶であったことを知った。
――おしげの骨壺を抱えて焼場から間借りしていた部屋に帰ってきて、末吉は一瞬ぼんやりしていたが、われに返った時、自分が誰かが来るのを待っていることに、そしてその誰かとは、いまその亡骸を骨にしてきたおしげであることに気づいて驚いた。部屋の中には最早おしげがいなければ埋められない空虚があった。