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にほんアルプスのごせんきょう
日本アルプスの五仙境
木暮 理太郎
「中学生」1922(大正11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,125 字 · 10 页
従って此山へ登るのはどの方面から向っても容易な事ではなく、白馬岳から尾根伝いに行くのが、唯一の骨の折れない方法であるが、一日は優にかかります。次は越後方面の大所から大所川に沿うて登るので、二日を要しましょう。私は尤も労力を要する越中からの道を選んで、先ず黒薙川の北俣を遡り、更に其の支流イブリ谷を登り詰めて、三日目の午後に漸く頂上に達することを得ました。一、二町の距離の中に四頭の熊を見たのは此時であって、如何に人跡が稀であるかをこの事実が語っています。此頂上から南方雪倉岳に至る間の残雪と高山植物と偃松とが巧に按配された美しい調和と、原始的の色彩とは、今日となっては此山と清水平以外、日本アルプスの何処へ行っても決して味うことの出来ない、私に言わせれば日本の国宝の一つです。私はこの山に就て余り多く喋ることを好みません。白馬岳のように無節制な多くの登山者に蹈みにじられるみじめさをここにも繰り返させたくないからであります。すると一部の人達は、山に登る連中は、山を自分のもののように心得、勝手な保護呼ばわりをして、小屋も建てるな、道も作るなと、自分等の外は無暗に人を登らせまいとする、けちな了見だ、ちと印度のダージリンあたりへ出掛けて、その行届いた観山旅行の設備を見るが好いと仰しゃる。