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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
不断草
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,765 字 · 21 页
なにもわからずに夢中で読みすごした文字のあとを、もういちどはっきりとたどってみたい、そこには良人の息吹がある、良人の呼びかける声がある、なにかしら自分に関したことも書いてあったような気さえする。部屋のでいりにもすぐ眼は仏壇へひきつけられた、夜半にめざめていまこそと思うこともたびたびだった、――せめて姑上さまがもういちど読めと仰しゃって下すったら、そうねがいもした、けれど老母はそれきり手紙についてはなにも云わなかったし、菊枝にもついにぬすみ読みをする決心はつかずにしまった。
その年が暮れて明けると間もなく菊枝は昼のうちだけこの家の機場へ織り子に出ることになった。藩主上杉治憲の新らしい政治が農産業の増進を主としていたし、機業はそのなかでも重要なひとつだったから、姑も御政治のごしゅいにかなうようにすすめた、菊枝にはそれとべつに、良人の帰って来る日まで、できるならひとの厄介にならないで、姑と自分の生計くらいは稼ぎたいと考えたのである。市左衛門は笑って、「見るよりは骨のおれる仕事ですから」とはじめはあやぶんでいたが、菊枝のけんめいなようすと、眼にみえるほどの覚えのたしかさにだんだんと心を惹かれ、あらためて腕のよい織り子につけて、本筋の仕事を教えて呉れるようになった。