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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
桃の井戸
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,620 字 · 26 页
そのときもう上に兄が三人あり、私はいちばん末のおんなだったから父母にも兄たちにもたいそう可愛がられ、わがまま育ちというほどではないにしても、自分の好みどおりには生いたつことができたようだ。私はあまりみめかたちの美しいほうではない。そのことにはかなり早くから気づいていた。「良二郎の顔だちの半分でも琴にやれたら……」母上がそう仰有るのを幾たび聞いたことだろう。良二郎というのは次兄のことで、三人の兄たちのなかではいちばん好きなひとだったが、ふとすると、憎いようにも妬ましいようにも思うことがたびたびあった。
そのじぶんは、大浄院さまの御治世はじめで、学問奨励のおぼしめしもあり、父が御勤役のほかに藩校創立の下しらべを仰せ付かっていたりしたから、しぜんと私も書物に親しむことが早く、七歳のおりに父や兄たちの前で小学の講義のまねごとをしたことなども覚えている。保持の琴どのは才媛だというような噂を耳にもし、また自分がみめよく生れついていないという悲しい自覚もあって、少しものごころのつく頃からは、書物を読んだりものを書いたりすることのなかにだけたのしみをみいだすようになった。