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にちろく
日録
山本 周五郎
「日本読書新聞」1961(昭和36)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,076 字 · 11 页
×月×日
庭のジンジャーがへたばってしまった。第二室戸颱風のとき海水を含んだ風にやられ、ちょうど咲き盛りのところだったのに、花も蕾もへたばったかにみえた。それがようやく立ち直り、また活き活きと咲きはじめたのだが、二十四号颱風で再たび叩かれたのである。ジンジャー君としては肚の立つことだろう、私は空襲中のことを思いだした。科学の粋を集めたB二十九の空襲に対して、われわれ一般国民は濡れ莚と火叩きだけを武器にたたかったのである。私は大森の馬込町に住んでい、荏原町にまたいとこの秋山青磁がいたから、空襲のあとではしばしば、互いに安否を問うために往来した。そのとき焼け野と化した街を通り、また焼けずに済んだ街を通るのであるが、火叩きと濡れ莚で、三度まで焼夷弾から守りぬいた街も、四たびめにはきれいに焼きはらわれてしまうのを見た。そういう或る日、K社のF誌編集長が、若い記者と防空服装であらわれ、「いま陸軍当局(東部防衛なんとかいったのであろう)と話して来たんですが、昨日の空襲では初期防火活動がよくなかった、と言ってました」こう言いだしたので、私は些さか逆上し、テーブルを叩いて、「ばかなことを言うものじゃない」