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そうしゅん
早春
豊島 与志雄
「苦楽」1947(昭和22)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,457 字 · 20 页
梅の木の向きについて、うるさくいろいろなことを言った。それが一々もっともなのが、素人にしては、ふしぎだ。植付けを終えると、梅の木はそこにみごとな枝ぶりを示した。太枝に花が少し残ってるのだけが、却ってぶざまだった。
木を眺めながら、縁側に腰かけて茶を飲んでいると、竹中さんはじっとおれの方を見つめた。いつまでも見つめている。そして言った。
「君は誰ですか。」
丁寧な口の利き方だ。おれがためらっていると、北川さんが答えた。
「僕の従弟ですよ。」
「従弟さんですか。初めてですね。」
おれの方で冷りとした。ジャンパーにゴム靴なんかの姿が顧みられた。だが、彼はもう北川さんと話しだした。
「あの枝は切った方がいいですね。」
「どれですか。」
「あの、こちらへ伸び出してるやつ……。」
「そう。ちと邪魔ですね。だが、若い枝のようだから、実はなるでしょうよ。」
そこで、梅はいったい花の方が大切か実の方が大切かという話になって、禅問答のようなことが続いた。
「僕はたくさん実のなる梅が好きですね。」と北川さんは言った。
「僕はたくさん花の咲くのが好きですね。」と竹中さんは言った。
それは議論じゃなくて、別々のことを勝手に言ってるような調子だった。