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そうしゅん

早春

豊島 与志雄

「苦楽」1947(昭和22)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,457 字 · 20 页

青空文庫

――天井にも床にも、壁にも、隙間がある。塀にも隙間がある。――人の注意にも、隙間がある。心にも隙間がある。――だから、そういう隙間をねらえば、どんなことだって出来る。大きな木だって持ち出せる。人間だって持ち出せる。

まあこんな風な、何もかもごっちゃにした話だが、中心はどうやら、あの梅の木にあるらしかった。あれは竹中さんの庭にでも植わってたもので、それをひそかに持ち出す興味と苦心とが、面白かったのだろう。――そんなことを問題にしてる竹中さんは、たしかに気が少しへんだ。話にのってる北川さんも、謂わば共犯者で、ちっとおかしい。

然しその話は、終りまで続かなかった。玄関に人が来て、お母さんは暫く話をし、それから、玄関と茶の間との間を往復して、その人を茶の間に通した。

竹中家のいろんな用をしてる番頭格の、山口という人だった。痩せた小柄な中年者で、禿げあがった額の下に、小さな眼が鋭く光っていた。一目見た時からおれはこの人が嫌いになった。山口さんなどとはどうしても言えない。山口と呼び捨てにするより外はない。

山口は一座に会釈をして、言った。

「これは、お邪魔を致します。