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そうしゅん

早春

豊島 与志雄

「苦楽」1947(昭和22)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,457 字 · 20 页

青空文庫

煎餅をこがした。

庭にはもう夕陽が薄らぎかけていた。山口はそちらへ眼をやって、梅の木を見付けた。

「ほう、梅はやはりこちらへ来ているようですなあ。」

山口は無遠慮に立って来て、縁側の硝子戸を大きく開けて、庭を眺めた。

その時、これもやはり隙間なのか、竹中さんは北川さんに小声で言った。

「お邪魔しました。これで失礼します。」

お辞儀をするとすぐ、竹中さんは立ち上って、実にす早く、廊下へ出てしまった。山口が振り向きかけたとたんに、おれは言った。

「寒いなあ。」

大きく開けてある硝子戸を、力一杯にぶっつけてやった。真鍮のレールで滑りがよかった。その戸をまともに受けて、山口はよろけ、縁外に飛び落ちた。

「乱暴な……。」

山口はおれの方を見たが、おれはそっぽを向いていた。彼は何と思ったか、それきりで、額と腰をさすり、縁にはい上って、足袋底の泥を丁寧にこすり落した。それから席に戻って、室の中を見廻した。誰も口を利かなかった。

玄関の方に竹中さんとお母さんの声がした。山口は出て行った。竹中さんはもう帰りかけていた。

二人を送り出して、お母さんは茶の間に来た。

「おかしな人ですよ。