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わせだかぐらざか

早稲田神楽坂

加能 作次郎

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月11日~29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,407 字 · 46 页

青空文庫

実際神楽坂で、一寸気楽に飯を食べに行こうというような所は、今でもまあ川鉄位なものだろう。勿論外にも沢山同じような鳥屋でも牛屋でも、また普通の日本料理屋でもあるにはあるけれど、そこらは何処でも皆芸者が入るので、家族づれで純粋に夕飯を食べようとか、友達なんかとゆっくり話しながら飲もうとかいうのには、少し工合が悪いといったような訳である。寿司屋の紀の善、鰻屋の島金などというような、古い特色のあった家でも、いつか芸者が入るようになって、今ではあの程度の家で芸者の入らない所は川鉄一軒位のものになってしまった。それに川鉄の鳥は、流石に古くから評判になっているだけであって、私達はいつもうまいと思いながら食べることが出来た。もう一軒矢張りあの位の格の家で、芸者が入らずに、そして一寸うまいものを食べさせて、家族連などで気楽に行けるような日本料理屋を、例えば銀座の竹葉の食堂のような家があったらと、私は神楽坂のために常に思うのである。

この辺で私は少し神楽坂の料理屋を廻ってみる機会に達したと思う。そして花柳界としての神楽坂の繁昌振りをのぞいて見たい欲望をも感ずるのであるが、併し惜しいことにはもう時間が遅くなった。