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わせだかぐらざか

早稲田神楽坂

加能 作次郎

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月11日~29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,407 字 · 46 页

青空文庫

長い年月を経た後に、ふと何かの機会にそれと気がついて驚くことはあっても、ふだん始終見つけている者には、何か特別の事情のない限り殆ど眼に立たないのが常である。私は本紙に連載中の大東京繁昌記の一節として、これからその印象や思い出を語ろうとしている牛込神楽坂のことに関しても、矢張り同様の感を抱かざるを得ない。

私が東京へ出て来てから既に二十二、三年にもなるが、その間今日までずっと、常にこの神楽坂を中心にして生活して来たようなものである。最初の三、四年間は、故あって芝の高輪の方から早稲田大学へ通っていたが、その頃まだ今の早稲田線の電車が飯田橋までしか通じておらず、間もなく大曲まで延びたが、私は乗換えや何かの都合で、毎日外濠線の電車を神楽坂下で乗り降りしたものだった。その後学校附近に下宿するようになってからは、何度その下宿を転々しても、又一家を構えるようになって、何度引越して歩いても、まだかつて一度も牛込の土地を離れたことがない。郊外生活をして見ようとか、他区に住み換えて見ようとか思い立ったことも幾度かあったが、その度毎に住み馴れた土地に対する愛著と、未知の土地に対する不安とが、常に私の心を元の所に引止め、私の身体を縛りつけてしまうのであった。