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はやみみさんじとりものききがき

早耳三次捕物聞書

林 不忘

04 海へ帰る女

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,707 字 · 12 页

青空文庫

が、姿は見えなくなっても、やはりその海底を、本芝の通りをあるいている時と同じように徳利を持って沖を指してすたこら急いでいるのだろう――と思われる。

あとにはただ、寄せては返す潮騒が黒ぐろと鳴り渡って、遠くに松平肥後守様のお陣屋の灯が、漁火と星屑とのさかいに明滅しているばかり。女身を呑んだ夜の海はけろり茫漠として拡がっていた。

白痴のようにぼんやり帰宅した和泉屋は、その夜の実見については何も語らなかった。

つぎの夕方も女は来た。和泉屋はまたあとをつけた。そうして前夜と同じに女が海へ入るところを見届けた。翌る日も、その次ぎの宵も――和泉屋は自分だけ知ってる秘密を享楽するのにいっぱいだった。

世の中には変なこともあるものだなあ。

人間すべきものは長生だ。

あの女は海から来て海へ帰るらしい。

さてこそいつも濡れているわけだて。

和泉屋は何もかも忘れてただこの白装束の女への不気味な興味ではちきれそうだった。

で、つけだしてから五日めの晩、例によって海岸の松のかげから女を見ていると、何を思ったか、女は浪打際でくるりと踵を廻らして、つかつかとその松の木の下へはいって来た。