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こんちゅうず

昆虫図

久生 十蘭

「ユーモアクラブ」1939(昭和14)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,772 字 · 4 页

青空文庫

しかし、今度は蝶々だった。

紋白や薄羽や白い山蛾が、硝子天井から来る乏しい残陽に翅を光らせながら、幾百千となくチラチラ飛びちがっている。そこに坐っていると、吹雪の中にでもいるような奇妙な錯覚に襲われるのだった。

青木は、家へ帰ると、女にいった。

「団六のところへ、こんどはたいへんに蝶々が来ている。行って見ろ、壮観だぞ」

女は、暢気な顔で見物に出かけて行ったがしばらくすると、青い顔をして帰って来て、

「嫌だ。あんな大きな蛾って見たことがない……脂ぎって、ドキドキしていた」

と、気味悪そうに眉をひそめた。その夜半、身近になにか人の気配がするので、ハッとして頭をあげて見ると、女が、大きな眼をして青木の枕元に坐っていた。

「……あたしの郷里では、人が死ぬとお洗骨ということをするン。あッさりと埋めといて、早く骨になるのを待つの。……埋めるとすぐ銀蠅が来て、それから蝶や蛾が来て、それが行ってしまうとこんどは甲虫がやってくるン」

二、三日、はげしい野分が吹きつづけ、庭の菊はみな倒れてしまった。落栗が雨戸にあたる音で、夜ふけにたびたび眼をさまされた。

ある夜、青木は厠に立ち、その帰りに雨戸を開けると、その隙間から大きな甲虫が飛び込んで来て、バサリと畳の上に落ちた。