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めいあん

明暗

岡本 かの子

「むらさき」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,887 字 · 12 页

青空文庫

しかし彼が持っている円滑で自在な魂は、かならずしも、人生の伴侶として特に自分を指名する切実性を持つ魂とは受取れなくなった。美人で才能ある女なら誰でもよさそうだった。ひょっとすると、彼の通俗な魂は勢逞ましいだけに、智子が自分の大切にしている一つの性情を、幸福の形で圧し潰してしまいそうに思われた。

それに引きかえ、同じ姻戚の盲目青年北田三木雄の頼りなく無垢なこころは姿に現れていて、ある日智子は絶えて久しい武蔵野の北田家を訪ねて、殆ど初対面のような三木雄を一目見て、すぐ、運命に対する清らかな忿懣を感じ、女性のいのちの底からいじらしさをゆり動かされるのを感じた。抛っては置けない情熱を感じた。「この青年を相手なら、自分は女の力を精一ぱい出し切れそうだ」とさえ思った。智子の盲目の夫は北田家の一人息子で、既に両親も早逝して、多額の遺産と三木雄の後見は叔父の未亡人に世話されていた。

「あら好いお天気」

障子をあけると智子は久しぶりに何の防禦もない娘々した声を立てて仕舞った。だが、直ぐにはっとして後に坐っている夫の三木雄を振り返った。初夏の朝の張りのある陽の光が庭端から胸先上りの丘の斜面に照りつけている。